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仙台高等裁判所 昭和45年(う)319号 判決

本店所在地

仙台市立町一番二〇号

株式会社 北杜社

右代表者代表取締役

渡辺篤

(組織変更前 本店所在地 仙台市国分町四四番地

有限会社

北杜社

右代表者代表取締役

渡辺篤

右会社に対する法人税法違反被告事件について、昭和四五年九月四日仙台地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人会社および原審弁護人から控訴の申立があったので、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人田利治名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴趣意(量刑不当)について。

記録を調査すると、本件は、原審相被告人や奥山弘ほか二名の共同で弘匠建築装飾株式会社(以下弘匠建築という。)を経営していたが、新たに右四名で飲食店経営を目的として被告人会社である有限会社北杜社を設立し、仙台市内に七ケ所の飲食店を創設し、原審相被告人が事実上の経営に当っていたところ、被告人会社の運営賃金借入の際の銀行信用確保のための資本蓄積や弘匠建築の増資に迫られ、原審相被告人において、創業当初の昭和四一年三月二六日から昭和四三年九月三〇日までの三事業年度の法人税確定申告を所轄税務署になすに当り、原判示の各手段を用いて、合計一三、〇九四、九〇〇円をほ脱したものであり、そのほ脱分の大部は被告人会社の資本蓄積に当てていたことは認められるものの、一部は弘匠建築の増資に当てたり、一部は役員に貸付けたりしていたものであつて、犯行の動機の一部には多少の想すべき点はあるにしても、ほ脱税額の多額であること等にかんがみれば、その罪責は重いものといわなければならない。被告人会社がその後重加算税を課せられて完納したことが認められること、当審における事実取調の結果によれば、現在赤字経営で人件費が増大しているとはいえ、新たに二ケ所に飲食店を増設しており、その経営内容からしても倒産に至るような事態の生ずるものとはとうてい認め難いこと等かれこれ検討考量すれば、原判決が被告人会社に対し、罰金三、五〇〇、〇〇〇円を科したからといつて、量刑が重きに過ぎ不当であるとは認められない。論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

検察官 平野新 出席

(裁判長裁判官 山田瑞夫 裁判官 阿部市郎右 裁判官 大関隆夫)

控訴趣意書

被告人 株式会社 北杜社

右被告人に対する法人税法違反被告事件に関する控訴の趣意は、左記のとおりである。

昭和四五年一一月九日

右弁護人

田利治

仙台高等裁判所 御中

一、 原審は、公訴事実をすべて認めた上、控訴人に対し罰金三五〇万円の判決をなした。控訴人は、右判決は刑の量定が不当であると考え、こゝに控訴を提起するものである。

二、 税法違反、殊にほ脱犯については、ほ脱後修正申告に基づく本税並びにそれに伴う地方税等が課せられるのは当然として、その他に延滞税、利子税、加算税或は、重加算税が課せられる。本件に於ても重加算税が課せられたのであり、控訴人も昭和四四年八月六日迄にこれを完納した。(原審に於いて証拠としてその領収証は提出済みである)

ところで、この重加算税を課せられた後に於ける本件の如き罰金の科せられることにつき、最高裁も重加算税につき申告納税を怠つた者に対し制裁的意義を有することは否定し得ないが、脱税者の不正行為の反社会性ないし、反道徳性に着目し、これに対する制裁として科せられる罰金とはその性質を異にすると解すべきであると判示している。

然し乍ら、これ程詭弁と言うべきはない。あらゆる税法の解説書にも重加算税についての説明としては「納税義務者などがとくに故意に基いて申告又は納税を怠つたことについて事実の隠ぺい又は仮装に基く場合には、強度の罰課的意味において重加算税が課せられる」と書いてある。

重加算税が制裁的意味に於いて課せられるものであることは否定出来ず、税として課すると言つても罰金と同じく金銭的負担を納税義務者にかける意味に於いては帰するところは実質的意味に於ては罰金と変らず重加算税を負担して完納した者に対し、更に本件の如く罰金を課するのは明らかに二重処罰と言うべきである。百歩を譲つて最高裁の見解を認めるとしても、本件に於て金三五〇万円の罰金を課するのは、右重加算税の完納の事実を考慮していない不当に過重な高額の罰金であつて刑の量定重きに失するとのそしりを免れない。

三、 本件ほ脱の動機或は目的更にほ脱に基いて得た金員の使用方法が何ら個人的利得を目的としたものでないことは原審に於いて、調べられた奥山弘の昭和四四年四月三日付質問顛末書、本曽弘造の昭和四三年一二月九日付質問顛末書或は証人今野秀一の証言及び被告人渡辺篤の原審公判廷に於ける供述等により明らかであり殊に控訴人会社が全く第三者の援助も受けず、奥山、高橋、木曽、渡辺の四人の頭脳と労働によつて企業をのばして来たものであり企業を延ばすためには銀行から借金する他なく、そのために銀行の信用を得んとしてとるべき報酬もとらずに銀行に現金を預金して来たものである。

そして、銀行に預金するための現金を脱税でもしない限り出来ないのが実情であるのであり、これが現在の金融資本の強くなつた戦後の資本主義下の中小企業の実態なのである。

四、 本件公訴事実は、金一三、〇九四、九〇〇円のほ脱犯となつているが、実際の修正申告額は金一四、八三七、六八〇円である。

右公訴事実の方がほ脱額が少額になつているのは検察官側の親切とは言い条、一面は修正申告の段階における大蔵事務官の指導によるものである。即ち、原審の最終段階に於ける意見陳述に際し相被告人渡辺篤が供述した如く修正申告については、大蔵事務官の言いなりのまゝに修正したのである。即ち、罰となるべき事実は確かに過去の事実の確定の上に立つのであるが、右罪となるべき事実の確定に際しては、捜査段階に於ける大蔵事務官と被告人渡辺らとの接渉によつて相当の出入りが生ずるものである。

何となれば、細かい数字等については被告人らの記憶のない事実が相当あるものであり、つじつまを合わせる意味に於いてなされた種々の交渉のあるのは当然である。そのために修正申告がなされるものであつて、その意味に於ては本来役員の報酬として、当然とるべきであつた預金等は当然経費として計上して差支えなきものであるとの主張も出て来るのである。

役員報酬をとらなかつたことについての考慮にしても、事実は止むを得ないとは言え、当然経費とさるべき役員報酬をとらなかつたことについて、本件の罰金刑の量刑については何ら考慮されていないと断ぜざるを得ない。通常の形で役員報酬を受けていれば原審に於ける弁論に於いて主張している如く三年間で五、九七七、一〇〇円の減額となるべき税額からすれば、本件は一般的には告発処分を受けないで、従つて刑事処分の必要なかつた程度のものであることについての考慮として金三五〇万円の罰金刑は過重と言わざるを得ない。まして同弁論に於いて主張する如く、開業費の繰延べをしたことについての経理上の拙劣さの故に生じたほ脱額の増大をも考慮に入れた場合、更に右刑の量刑不当の主張は当然と言うべきである。

五、 以上主張の如く本件の罰金額はその犯行の動機目的或は態様から言つても又、控訴人会社の修正申告後の反省に基づく種々付帯税の完納状況、更にほ脱額の比率的減少という事実等あらゆる状況に鑑み、こゝに控訴人を更に罰金三五〇万円の刑に処する必要性はさらさらないものと言わざるを得ない。相被告人渡辺篤は、その責任を負つて控訴せず一審判決を確定させ責任を負つたのにも拘らず、会社のみ控訴した事情もこゝに存するのであつて、控訴審に於ける大巾な刑の減刑を期待して控訴趣旨とするものである。

以上

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